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  中原信達特許事務所 > ニュースレター〔バックナンバー〕 > 2007.08


2007年8月  


  暑い日が続いております。いかがお過ごしでしょうか?
  今月のニュースレターは中国の知財専門家による判例分析を紹介します。特許権侵害訴訟で、被告となった場合に先使用権や公知技術での抗弁について解説されていています。是非御参照ください。

事件の経過
原告:楽清大力公司――1998年11月20日HC-901内部ドアを「金網防犯ドア」として実用新案を出願し、実用新案権第98247510号を取得。
被告:長春鋳誠公司――2000年7月24日HC-901内部ドアの通風孔の形を六角形に改め、通風孔付き内部ドアとして意匠出願を行い、意匠権第00310610号を取得。

2002年3月
  楽清大力公司は、長春鋳誠公司が生産販売している「世紀の星防犯ドア(即ち通風孔付き内部ドア)」が自社の「金網防犯ドア」の実用新案権第98247510号を侵害しているとして杭州市中級人民法院に訴訟を提起、同時に「金網防犯ドア」の権利が有効であることを証明するために、復審委員会が出した権利有効の審決書(第3055号)を提出した(これより以前、実用新案権第98247510号は、永康市隆慶門行有限公司から無効審判請求を受けていたが、専利復審委員会は2001年3月13日権利有効の判断を出した(審決書第3055号))。
  これに対し、長春鋳誠公司は、世紀の星防犯ドアは、上海国欽建築材料有限公司が製造販売しているHC-901内部ドアの構造をまねて製造したのであり、この内部ドアは98年11月20日より前に公知技術となっている。公知技術は非侵害であり、原告が公知技術をコピーして権利を取得して権利侵害訴訟を提起するのは権利濫用であると反論した。被告は同時に、上海国欽建築材料有限公司の証明書2部を提出し、長春鋳誠公司が所有するモデルが配布されたものであること、長春鋳誠公司が撮影したHC-901は98年8月に上海国欽建築材料有限公司から購入したものであることを証明し、構造上実用新案と同一であるとの事実を証明した。

  一審では、被告の提出した証拠は間接的であり、一貫性のある証拠を形成しておらず、先使用権を証明するまでには至らないとして被告の主張を退け原告を支持した。

  2002年4月23日
  長春鋳誠公司は、一審の判決を不服とし、また、判決が特許法第63条第2項(先使用権)による判断でないことから浙江省高級人民法院へ上告、公知技術による非侵害を主張した。

2002年5月31日
  二審が開廷される前に、長春鋳誠公司は、3つの新しい証拠について公証を行い、これらの証拠とモデルとが一貫性のある証拠になっており、HC-901内部ドアと実用新案権とは構造が全く同じであり、出願日以前に販売され、公知技術となっていることを証明した。
2002年6月4日
  長春鋳誠公司は、復審委員会に実用新案権第98247510号の無効審判請求を提出、かつ、浙江省高級人民法院へ訴訟審理中止を求めた。
(証拠内容)
1-(1)上海許××(98年9月23日上海国欽建築材料有限公司にHC-901を受注)のメモ。「98年9月23日HC-901内部ドア二枚各780元を受注し、同内部ドアを江寧路239号10楼E室及びD室に設置した」。メモには許××のHC-901金属ドアの長所及び構造について具体的な描写があった。
1-(2)公証人が上海市江寧路239号十楼E室及びD室で撮影した写真7枚
1-(3)上海国欽建築材料有限公司の金属製ドア注文書
  これらの証拠及び製品のモデルはともに当該特許権及び技術案は出願日より以前に自由公開技術になっていたことを証明した。2002613日二審の審理を開始した。長春鋳誠公司の証明に対し、楽清大力公司は証拠質問時に、「公証は許××が言ったことが四年前に起きた事実であると証明することはできない。なぜなら公証人は四年前のことを目撃することはできないから」と反論した。これに対し、長春鋳誠公司は、裁判所に、双方の担当者に近くにある上海の現場へ赴き調査するよう請求したが退けられた。
  裁判所は、「当該実用新案は授権されたのち、復審委員会でも権利有効の判断がくだされている。また、長春鋳誠公司は一審の応答期間内に無効審判請求を提出していない。よって、本院は、当該実用新案権は公知技術であるとの被告の抗弁及び審理中止の請求を認めない。」として、二審では、裁判所は新しい証拠について言及せず、復審委員会が提出した審決書第3055号を依拠として、被告側の公知技術の使用であり非侵害であるとの抗弁を認めず、原告を支持した。

2002年9月19日
  復審委員会は口頭審議を経て、実用新案第98247510号は無効であると判断した(審決書第4536号)。復審委員会は、「証拠1-(1)、1-(2)、1-(3)及び証拠5と6は一貫性のある証拠となっており、防犯ドアが98年9月23日より以前に誰でもその構造を知りうることのできる公知の状態であることを証明している。また、1-(2)及び証拠5、6は防犯ドアが先行技術を構成していることを表示している」と判断した。

2002年12月19日
  楽清大力公司は審決書第4536号を不服とし、北京市第一中級人民法院に行政訴訟を起こした。

2003年11月19日
   北京市第一中級人民法院は、「クレーム1-6によって請求されている保護範囲は98年9月23日の時点で既に公衆に公開されていた技術である」との判断を示し、審決書第4536号を支持した。

2004年3月4日
  この判決を不服とし、楽清大力公司は北京市高級人民法院に上告した。

2005年2月5日
  北京市高級人民法院は、楽清大力公司の上告を棄却、北京市第一中級人民法院の判断を支持した。


【判例分析】
1.裁判所は、被告の公知技術使用による抗弁を一方的に否定してはならない。
  裁判所が公知技術使用による抗弁を支持した判例は少なくない。1997年12月16日浙江省高級人民法院は、「刺繍製品のカラー技術の方法」について最終判断を下し、上告側の公知技術使用は権利侵害にあたらないとして、特許権者の訴訟請求を棄却した。つまり法律、司法、法学理論及び判例とも公知技術の使用は非侵害であると認めていると言ってよい。本件についても、公知技術確認のための証拠が十分に揃っている。裁判官が事実に従い法律よる判断をしていれば、公知技術使用は権利侵害に当たらないとの判断を容易に出せたはずである。二審において浙江省高級人民法院は、@新証拠について審議しないA公知技術使用について審査しないB証拠の調査請求を許可しないC公知技術使用の抗弁及び訴訟中止請求を認めない、の4つの「しない」は、実用新案権第98247510号に対する復審委員会の出した判断を依拠としたことによる。このような審理方法は誤りである。権利有効は、訴訟提起受理の条件であり、公知技術使用の抗弁、特許権濫用の抗弁或は先使用権の抗弁を拒絶するものではない。

本件に関する審理は以下のように行われるのが望ましい。
@裁判所は、最高人民法院による『民事訴訟の証拠についての若干の規定』に基づき、法律で定められた順序で全面的かつ客観的に証拠審査を行い、証拠能力について判断し、理由及び判断結果を公開する。
A被告は公知技術と特許権のクレーム範囲が完全に一致することを証明する。
B被告は、使用した技術は公知技術であり、且つこの公知技術は、一つの完全な公知技術であって、公知技術を寄せ集めたものではないことを証明する。

2.裁判所は、公知技術の抗弁と先使用権の抗弁について適用する法律を区別するべきである。
  権利侵害訴訟において、公知技術と先使用権が問題になることは決して珍しいことではないが、裁判所は、違いをはっきり理解していると思えないような判断をすることがある。本件においても、一審の判決の中で、裁判所は長春鋳誠公司が公知技術の抗弁として提出した証拠に対し「一つの連続性のある完全な証拠ではなく、先使用権を証明するまでにはいたらない」と述べているが、証拠に連続性が無いことと先使用権の証明とは関係のないことであり、特許法第63条第2項により侵害と判断したことは明らかな誤りである。

公知技術と先使用権の違いは主に以下の4点にある。
  公知技術 先使用権
使用した人 特定しない 先使用者のみ
使用した技術 公知技術 特許技術
使用範囲 無制限 もとの範囲において継続して使用、あるいは製造
適用される法律 憲法第51条 特許法第63条第2項


  先使用権を抗弁とするときは、以下のことに注意する必要がある。
@先使用の行為は必ず出願日より前でなくてはならない。
A先使用の行為とは、すでに同様の製品を製造している又は同様の方法を使用している、或は、製造、使用するために必要な準備を完了している。
B先使用権は、出願前のもとの範囲内でのみ使用が可能である。
この他、以下の条件も満たさなければならない。
C権利が有効であること。
D先使用が出願前には未公開であること。
E先使用はクレームにある全ての技術的特徴を含んでいること。
F先使用の使用者は、原権利者(つまり先使用者)であるか又は合法的な権利者であること。

先使用権を抗弁にできない場合について
出願前に、販売、宣伝、講習会、展示販売会などで先使用者(侵害したと訴えられた側)が自分で製造した同一の製品或は同一の方法を公開することは公知技術とみなされ、先使用権を使って抗弁することはできない。
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  中国で特許権侵害として訴えられた場合に、一番良く使われる対抗手段として、相手の特許権に対して無効審判請求を復審委員会に提出することが挙げられます。中国特許法では、特許の有効性に関することは、専利復審委員会により審理を行い、権利侵害については、裁判所が審理を行うと規定しています(第45条、第46条、第57条)。

(この記事は2006年4月に中国特許庁のHPに掲載された資料をもとに作成しました。)

 
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